東京地方裁判所 昭和46年(ワ)5376号 判決
原告
浜迫イセ
被告
大丸織物運輸株式会社
主文
一 被告は原告に対し金三七万九、八〇〇円およびこれに対する昭和四六年七月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分しその一を被告の、その余を原告の各負担とする。
四 この判決は第一項にかぎり、仮りに執行することができる。
事実
第一請求の趣旨
一 被告は原告に対し、金八九万九、六〇〇円およびこれに対する昭和四六年七月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
第二請求の趣旨に対する被告の答弁
一 原告の請求を棄却する
二 訴訟費用は原告の負担とする
との判決を求め、仮に被告敗訴の場合には、仮執行免脱の宣言を求める。
第三請求の原因
一 (事故の発生)
原告は次の交通事故により受傷した。
(一) 発生時 昭和四五年一一月二〇日午後〇時一〇分項
(二) 発生場所 東京都港区芝浜松町三―二先路上
(三) 加害車 普通貨物自動車(足立四え六四七〇号)
運転者 訴外中島国善
(四) 被害車 営業用普通乗用車(足立五か一三三九号)
同乗者(乗客)原告
(五) 態様 被害車に加害車が追突。
二 (責任原因)
被告はその従業員である訴外中島国善を訴外正和梱包輸送株式会社(以下単に訴外会社という)の業務に従事させ、右中島は被告の利益のために加害車を運転してその業務に従事中、前方不注意の過失により本件事故を発生させたのである。
よつて中島は被告の業務に従事中その過失によつて本件事故を発生させたものであり、また被告は加害車を運行の用に供していたものといいうるから、被告は民法七一五条一項若しくは自賠法三条に基づき本件事故から生じた原告の損害を賠償する責任がある。
三 (損害)
原告は本件事故により頭部外傷、頸部捻挫の傷害を受け、このため、原告は当時妊娠四ケ月のところ切迫流産するに至つた。
これによる損害の数額は次のとおりである。
(一) 治療費 九万九、六〇〇円
(二) 慰藉料 八〇万円
通院分慰藉料一〇万円、流産分慰藉料七〇万円として、右金額が相当である。
四 (結論)
よつて原告は被告に対し金八九万九、六〇〇円およびこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四六年七月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第四被告の事実主張
(請求原因に対する認否)
請求原因第一項および同第三項の事実はいずれも知らない。
同第二項は否認する。
本件加害車は訴外会社の所有であつて被告の運行の用に供されていたものではない。被告は当日右訴外会社から自動車運転手の派遣を求められ、被告の従業員中島を差し向けたのであつて、中島は被告の支配力のおよばない右訴外会社の指揮下で訴外会社の運転業務に従事していたものである。従つて本件事故当時中島は被告の業務を執行していたものではないし、被告は加害車の運行供用者でもない。
第五証拠関係〔略〕
理由
一 (事故の発生)
〔証拠略〕によれば、昭和四五年一一月二〇日午後〇時一〇分頃東京都港区芝浜松町三―二先路上において、訴外中島国善の運転する普通貨物自動車(足立四え六四七〇号)が、原告が乗客として同乗していた営業用普通乗用車(足立五か一三三九号)に追突する交通事故が発生したことが認められる。
二 (責任原因)
前項認定の事故態様によれば、本件事故は訴外中島の前方不注意の過失によつて発生したものと推認することができる。
そして〔証拠略〕によれば、被告は運送を業とする株式会社で、訴外藤谷忠造は当時その代表取締役であつたところ、昭和四五年九月頃同業の訴外会社が経営困難に陥りいわゆる身売りを望んでいたため、藤谷は自社の経営規模の拡張を企図してその経営を引き受け、その代表取締役に就任して、而来被告と訴外会社の双方の経営に当つていたこと、訴外中島は本件事故の一〇日位前に被告が自動車運転手として雇用した者であるが、当時訴外会社には運転手が不足していたもののそれを雇用する資力がなかつたため、被告において雇用した中島他一名の運転手を専ら訴外会社に派遣してその運転業務に当らせ、このような形で被告が訴外会社の経営を援助しその再建を計つていたこと、中島に対する仕事上の指揮監督は具体的には右藤谷において行つていたこと、本件事故も中島がこのようにして訴外会社の自動車を運転中に発生したものであること、藤谷はその後訴外会社から手を引き、現在訴外会社は事実上営業を停止していることがいずれも認められる。
右事実によれば、訴外中島は訴外会社の業務に従事するについても常時被告の指揮監督の下にあつたとみるべきであり、また被告が訴外会社に同人を派遣しその運転業務に従事させること自体被告の業務に含まれるものとみることができるから、本件事故は中島が被告の業務を執行するにつき惹起されたものということができる。
よつて被告は民法七一五条一項により、本件事故により発生した原告の損害を賠償する責任がある。
三 (損害)
〔証拠略〕によると、原告は当時妊娠三ケ月の身であつたところ、本件事故により頸椎を捻挫し、事故直後は異常がなかつたが、一週間位してから頸部や腰が痛むとともに切迫流産の徴候が現われ、昭和四五年一一月二七日から同年一二月七日まで畠中医院に入院して流産し、退院後も頸部と腰部の病状に対する治療のため城野外科医院に若干の通院をしたこと、右流産および頸・腰部の病状は本件事故に基づくものであること、原告はその後妊娠して昭和四七年七月無事出産したこと。右治療のための治療費として、畠中医院分五万九、二〇〇円、城野外科分二万〇六〇〇円、合計七万九、八〇〇円を要したことがいずれも認められ、そして右事情および本件にあらわれた一切の事情に照らし、原告の本件事故に基づく苦痛を慰藉すべき金額として三〇万円が相当と認める。
四 (結論)
よつて原告の本訴請求は右損害合計三七万九、八〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日であること訴訟上明らかな昭和四六年七月二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認定し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用し、なお被告の仮執行免脱の宣言の申立についてはその必要がないものと認めてこれを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 浜崎恭生)